un rêve
パリ19区。
スターリングラード駅の高架下には数えきれない程の人々が寝起きしている。
雨をしのぎ、寒さを皆々と分かち、もうすぐ春、という今日。
朝9時に警察が我が家の目の前の大通りを塞いだ。
叫ぶ者、シミだらけのマットレスを無惨に一掃する者、
カフェの主人、パン屋の旦那、通りに住む住人が、
この理不尽な今日の出来事に対し道に立つ警察に掛け合う姿。
カラシニコフを持つ仁王立ちの列。
女は泣き伏し、男は絶望を隠さない。
メトロ2番線は閉鎖。
すべてを追い出し柵が囲われ、高架下は立ち入り禁止場所となった。
家を出る度に見ていた彼らの日常は、もうない。
この目の前の出来事に、だれがカメラを向けられようか。
ミントの葉やコリアンダーはこの駅前で彼らが売っているものが
一番新鮮で一番安い。
炊き出しをもらった後の安堵の表情。
娼婦たちの姿。
2016年、こうした風景は、大きな世界の象徴であるパリの移民街で共生する、
わたしたちの日常。
彼らは、今日どこで夢をさまようのだろうか。
せめて温かい場所であると、願う。
春の夜の夢の浮橋とだえして嶺にわかるる横雲の空(藤原定家)